無限連鎖



「いつだったか、蓉子は『心の傷が見えればいいのに』って言った事があるよね」


しばらく、何のことを言われているのか分からなくて、思い当たるまで少し考えた。

「・・・ええ。確かに言ったわ」
「考えてみたんだけどさ……私は、傷なんて見えなくて良かったと思うよ」
「どうしたの?突然」

組んだ指を見つめて、聖は言葉を紡ぐ。
俯き気味だったせいか、その表情は私からは見えなかった。

「もし、傷が見えるものだったら・・・蓉子の言うとおり蓉子はもっと上手く私に接する事が出来たと思う。 でも、それはきっと最初だけだ」
「どういう意味?」

いつの間にか、私も聖の手を見つめていた。
少しだけ力が込められたのが分かる。

「蓉子に私の傷が見えたなら、私が何か傷つけば、そのせいで蓉子はきっと傷つくと思う。 たとえその原因が蓉子じゃなかったとしても」

そうしたら、今度はそんな私を見た聖が傷つくかもしれない。
彼女はとても優しくて、傷つきやすい人だから。
そしてその事がまた私を傷つけたりするのだろう。
ああそうか、その連鎖はきっと永遠に終わらないんだ。


だからね、と私の方を向きながら、聖は続ける。
次の言葉はもう、私にも分かっていた。




「傷なんか見えなくて良かったと思うよ」



負った傷が見えないのは、それを隠そうとするのは、拒絶でも何でもなくて。
ただ、誰かを傷つけたりしたくないだけ。
そのことで自分が傷ついたりしたくないだけ。

自分や、愛しい人を守るための手段だったのね。



あとがき
『茨の番人』のしばらく後の話。
今回この話をサイトの方にアップするのにあたって茨の番人を読み直したら、
先代好きを改めて実感。

初出 2005.2.21 ポケットの中のメモ帳


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