日常茶飯事
「あ、カトーさんお疲れー!」
遠目に目が合ったような気がしたのは、気のせいではなかったらしい。
佐藤さんがばたばたとこちらに向かって駆けてくるのが見えた。
「お疲れさま。佐藤さんは今日はもう終わり?」
「うん、そう。だからさ、一緒に帰らない?」
「…」
「加東さん?」
「あのね、佐藤さん、私がいつもあなたと同じ時間に終わるとは限らないのよ?残念ながら今日はあと一コマあるの」
まあ、一般教養だし、出席取らないし、サボったところで何の問題もないだろうけど。
それじゃあ、と言って立ち去ろうとすると、いきなり上着の裾を掴まれた。
「サボっちゃおーよ」
「何の為に?あなたと一緒に帰る為に?悪いけど、その選択肢は選べないわね」
「な…、加東さん、私と授業とどっちが大事なの?!」
「そんなの、授業に決まってるでしょう」
というか、単位と言った方が正しいか。
「というわけで、放してちょうだい。もうすぐ休み時間も終わるだろうし」
「…分かった」
そう言うと佐藤さんは、渋々ながら掴んでいた手を離す。
「今度は一緒に帰ろうね」
「時間が合えば、ね」
「りょーかい。じゃ、またね、加東さん」
「ええ、またね佐藤さん」
門の方へ向かう彼女を見送ってから次の教室に向かったら、案の定教室の外でチャイムの音を聞く羽目になってしまった。
「はぁ…」
そういえば大学に入ってから、いや、佐藤さんに出会ってからか、何だか溜め息をつく回数が増えたような気がする。
溜め息をつく度幸せは逃げていくって言うけど…
「ちっともそんな気がしてこないのはどうしてかしらね…」
あとがき
景さん初書きです。
聖さまよりも年上なんですよねー。忘れがちだけど。
世話焼き、世話焼かれな関係は大好きです。
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