仮面



決して届かないこの手。


―伸ばさない手が届くわけがない、か


私はきっと臆病者なんだ。
伸ばしたその手で二人の繋がりを断ってしまうんじゃないか、って。
そんな未来を恐れて私は未だ縮こまったままでいる。


―もしもこの想いをぶつけたなら、あなたは一体どんな顔をするのかな


受け入れてもらえるなんて夢は始めから見てはいない。
むしろ怖いのは、あなたが私から離れていってしまうこと。
そんな事、きっと私は耐えられない。
だから何でもない顔をして、私はあなたの隣に並んできた。
あなたの傍にいられること自体が幸せなことなんだ、って言い聞かせながら。
だから私は、これ以上を求めてはいけないんだ。



「やっと見つけた」

「・・・よ、蓉子?」
「早く来なさい、みんな待っているわよ」

動揺して、思考に急ブレーキが掛かってしまった。
どうしよう、このまま踏み込まれたら墓穴を掘りかねない。

「聖?どうしたの?」

そうだ、私の避難場所・・・

「・・・祐巳ちゃんもいる?」
「ええ。でも、あんまりからかわないで頂戴ね。フォローが大変なんだから」

言って軽く溜め息をついた。
私も安心して一息つく。

―呆れているような、苦笑しているような、そんなあなたの表情が好き。
―いつも私を見ていてくれるあなたが好き。

声にしないで、心の中でだけ密かに呟いた。

「善処させて頂くよ」

気づかれてはいけない。
だから私は『手のかかる友人』の仮面を被り、あなたの前に立つの。
これまでのように今日も、そして明日からもきっと。
それこそが幸せなんだと、全てに嘘をつきながら・・・。



あとがき
どうやら私は『届かない手』というフレーズが好きらしい、と思わされた話。
あと『臆病者』っていうのも。

初出 2004.9.23 ポケットの中のメモ帳


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