幸せの在処 side Y



勝手に想って勝手に愛して、

彼女の一挙一動に傷ついてみたり、

彼女の些細な言葉に心弾ませたり、

いつの間にか私の世界は彼女を中心に回っていた。



「だけど彼女の世界にあなたはいなかった、そうでしょ?」

「そうよ。私たちの世界は交じることないものだったのかもしれないわね」

「それならあなたが踏み込めばいいじゃない」

「それじゃ駄目なのよ。無理やり踏み込んだらきっと壊れてしまうわ」



手を伸ばせば届くのかもしれないけれど、

届いたその手でそのまま壊してしまいそうで、

結局手を伸ばすことはなくこの手が触れることもない。



「いつまで経っても、あなたは臆病なままなのね」

「・・・そうよ、でもこれでいいの」



隣に立つ事が出来るのだから、

それでいい。

他に一体何を望もうか。

想いを伝えることはこの先もきっとないだろうけど、

大勢の中の二人になることは出来る。

それは多分幸せなことなのだろうから。

だから、

私はそれでいいのだ。



「・・・そんな・・・・・・の・・・・か・・・・ない」



吐き捨てるような声が、風にかき消えた。

何を言ったのかはよく分からなかった。

聞き返しても、

答えはない。



「あなたがそれでいいなら、私が言うことは何もないのよね・・・」



少し悲しげな声が、

しばらく頭の中に響いていた。



あとがき
江蓉を書くと、どうしても痛い話になりがちです。
っていうか、江利子→蓉子→な感じになってしまう…。
後日江利子sideもUPします。

初出 2004.9.30 ポケットの中のメモ帳


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