七夕
「これは?」
「短冊どす」
「そんなことは分かっている。私が聞きたいのは―」
「それに願い事書いて、あの笹に吊るしとくれやす。今日は七夕やさかい」
にっこり笑ってそう言う静留にそれ以上反論は出来なかった。
仕方なく渡された短冊とペンを取り、願い事を書き出そうとする。
が、
―ちょっと待て、笹に吊るすということは、何を書いたか静留に知られてしまうんじゃないか?
余計なことに気づいてしまったなつきはペンを動かすことが出来ずにいた。
そしてかれこれたっぷり30分は短冊と格闘している。
「なつき、もう他の飾りも全部終わってしまいましたえ?」
「う、うるさいな、今考えているんだ!」
「その台詞、もう聞き飽きましたわ」
延々と短冊とのにらめっこを続けるなつきを置いて、静留は夕飯の準備に取り掛かってしまう。
「静留のやつ、人の気も知らないで…」
悪態をつきつつ笹の方を見ると、静留が吊るした短冊が目に入った。
そこには達筆な字で『なつきは誰にも渡しまへん 静留』と、書かれている。
―静留、それは願い事というよりも決意表明なんじゃないか…?
ずっこけつつも、あまりに正直な願い事(?)を目にしたなつきはようやく覚悟を決める。
「…『マヨネーズ一年分 なつき』って、なんやの、これ」
「私の願い事だ。1日1本、1年で365本、素晴らしいじゃないか」
悩んだ挙句の願い事は、色気も何もなかった。
あとがき
こんなオチでごめんなさい。
ほのラブエンドもあったんだけど、そこまで繋ぐ技量が…(致命的)。
そしてなつきの願い事も願い事になっていないそんな事実。
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