すれ違い



side-真雪 side-春海

こういう形でしか何も伝えることが出来ない。
私はひどく臆病者なのだ。

「好きだよ」

帰り道、セミの声と共に届いた言葉。
それはまるで何かのBGMのようにさらりと聴こえてくる声。
その一音一音にどれだけ私の胸が締め付けられるのか、
あなたはきっと知らないのでしょう。

どんな流れだったのか、そんな言葉が口をついて出た。
うん、暑さで頭がぼーっとしてるのかもしれないな。
隣を歩く真雪の反応は、ない。
顔を覗き込んで様子を伺う。

「ねえ、聞いてる?」
「聞いてる」
「じゃあ何で返事してくれないのよ、真雪のばか」

ふくれっ面。

少し拗ねたように。
何の意味もないのは知ってるけど。

「何を期待してるのよ」

言いながら、でも続く言葉はもう知っていた。

ちらりと私のほうを見ながら。
多分、少し慎重になってる。

「『私も好きだよ』とかさー」
「や、無理だし」

このやり取りも、もうお馴染み。

分かっているよ。
あなたはきっとそう言うと思ってた。

「冷たいなー。てか、ノリ悪い」

春海は不満をぶつけてくるけど、仕方がないじゃない。

本音を冗談でかき消して、何も無かったようにして。
私はそうやって、いつでも逃げ場を用意している。
ありのままぶつかるなんて、どうして出来るだろう。
だけど、今日の真雪は何か違っていて。

「冗談で、『好き』だとか言わないで」

だって、期待してしまうから。
あなたを好きでいていいんじゃないかって、
勘違いしてしまう私がいるから。

ただ冷たい言葉が響いた。
何が悪かったのか分からないけどただ、
怒らせてしまったんだと思った。

「真雪?ごめん、怒った?」

謝るくらいなら、そんなこと言わないで。

焦りだけが募る。
そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
どうして私は失敗してからじゃないと分からないんだろう。

「別に怒ってなんかないよ」

怒ってなんかない。
ただ泣きたかっただけ。
そっけなく言い放たれる。
本当に怒ってないならこっちを見てよ。
私は心の中で懇願することしか出来なかった。


お願い、
お願いだから、
一度だけでいいから、
あなたにすべて伝える勇気を下さい。



あとがき
ちょっと変わった構成にしてみました。読みづらい感がひしひしと。
文章自体もちょっと改訂してたり。
てか、キャラの設定が今と違うので何か別人の話みたいだ。

初出 2005.2.28/3.10 ポケットの中のメモ帳


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