そんな日々も悪くないと、そう思った。



ありえたかもしれないそんな日々



「「蓉子、手つながない?」」
「...へ?」

薔薇の館へ行く途中に発せられた、聖と江利子の突然の言葉。
あまりに予想外で、私は少々間の抜けた返事しか出来なかった。

「ちょっと蓉子、今の何だか祐巳ちゃんみたいよ?」
私もそう思った。というか江利子、今のは明らかに誉め言葉じゃないわよね。
...祐巳ちゃんには悪いけど。

「そんなことより、二人していきなりなんなの?手つながない?、なんて」
「だって、つなぎたいって思ったんだもの、ねぇ聖?」
「そうそう。いいじゃない、スキンシップよ、スキンシップ」

二人とも他意はなさそうな感じ。
ただ、高校三年生にもなって手をつないで歩くなんて恥ずかしくないのかしら...。
「あら、全然恥ずかしいことだなんて思わないけど?」
「...江利子、人のモノローグを読まないでちょうだい」
エスパーじゃないんだから。

「さ、蓉子、手出して」
聖が、手を差し出しながら言う。
私がしばらくためらっていると江利子が背中を押してきた。
「蓉子、三人でこんなことが出来るのも今のうちよ」

そうだ。もうすぐ私たちはリリアンを卒業してしまう。
そうしたらこうやって三人で並んで歩くこともなくなってしまうかもしれない。
そう考えたら、一度くらい、いいわよね、と思った。

「...」
江利子の言葉には答えないまま、聖の右手をとる。
同時くらいに、江利子が私の右手をとった。

「…私が真ん中なのね」
「「もちろん」」

私たちのリーダーだからね、と聖が続けた。


手をつないで、三人で薔薇の館へと歩いていく。
当然の結果として、そんな私達を見た生徒たちが周りで騒ぎはじめた。

「あはは、注目の的だねえ」
ああ、やっぱり少し恥ずかしい。
「本当。でも、無理もないわよ」
そう考えてしまう私は、やはり今も''紅薔薇さま''なのだろうか。
だけど、思っていたよりは悪くない。

「ねぇ蓉子、たまにはこういうのもいいんじゃない?」
またも人の心を読んだかのような江利子の言葉に、私は苦笑して答えた。

「たまに、ならね」

こういうのもいいかもしれない。
''薔薇様''であることを忘れて、三人で手をつないで。
そんな日々も悪くないと、そう思った。



あとがき
初SSです。学校行く時にネタが降りてきました。
先代薔薇様がどうしようもないくらいに大好きです。


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