未だに「友達」になれた気さえしない。 それが私たちの距離感。



距離感



「好きだよ、真雪」

プリントにペンを走らせる真雪に後ろから抱きつく。
びっくりして握られた左手によってしわが付けられた哀れなプリントは、確か文化祭に関するアンケート。

「・・・・・春海」
「ん?」
「ちょっと離れてくれないかな?アンケート、書きたいから」

こちらに向き直ることなく、必要最低限のことだけ告げる。
その声は何かの感情を押し込めているようにも聞こえたけれど、
それが何なのか、私には分からなかった。
―怒ったのかな?嫌だったかな?
紙の上を走るペンは止まらない。
ペンの動きに合わせて、私の心が不安に揺られているような気がした。

「真雪は冷たいなー」
「だ、だって、春海がいつもふざけたことばっかり言うから…」
「いいじゃない。私真雪のこと好きなんだから」

精一杯、いつも通りの私を演じる。
揺れる心に気づかれないよう祈りながら。

「・・・良くないよ」

必死に絞り出したような声。
ペンが止まる。
無言のその雰囲気に圧倒されて何も言えない。
ただ、回していた手を離してゆっくりと身を引いた。

「・・・・・・・ゆ、き・・」

空気が重い。

「・・・ね、真雪?」

どうしよう、どうしよう。

「え、何?春海」

はっとした表情で振り向いた真雪。
その顔からは何も窺い知れない。
息をするのを忘れてしまうくらいの緊張感に襲われて、何も言えなかった。
そんな私を見て真雪がキョトンとした顔をしている。
いつの間にかさっきまでの威圧感はなくなっていた。

「・・・・春海?」
「怒ったかと思った・・・」

ポロリと零れた言葉はなんの飾りもついていなかった。
思った、というより怒ったとしか思えなかったけど。
はっきり言ってものすごく怖かったけど。

「少しだけ、ね」

苦笑いを見せる真雪の顔に、ほんの少しの安堵とそれを遥かに上回る不安を覚えた。


私たちの距離は今どれくらいなんだろう。
私はあなたにどれだけ近づけているんだろう。
あなたはどうして私と一緒にいてくれるんだろう。
聞きたいことが頭に浮かんでは、どれも口に出来ないまま消えてしまう。
分からないことはとても苦しいけれど、知ることはそれ以上に怖かった。


だから今も、彼女にとって私がどんな存在なのかは分からないまま。



あとがき
想いの形は少し違うけど、互いに本当に相手のことが好きでしょうがない二人。
本当のことを言ったら嫌われるんじゃないかという真雪と、
そんなこと考えてぎこちなくなってる真雪を目の当たりにして身動き取れなくなる春海。
そういえばこの話、流れが『すれ違い』に似てる…orz。

初出 2005.5.4 ポケットの中のメモ帳


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