不思議な人



「紗弥先輩、議事録のまとめ、終わりましたよ」

夕暮れの生徒会室、残っている役員は二人。
外では熱心な運動部員達が練習に励んでいる。
定時制のない学校だから、すっかり日が暮れてしまうくらいまでは続くのだろう。
そして私は、昼休みに行なった各委員会長の集まる定例会の議事録を作成するように頼まれ、この時間まで残っていた。
それに付き合うように何故か生徒会長―紗弥先輩―がこの部屋にいた。

「ん?ああ、ご苦労様。ありがとうね、わざわざ残ってもらっちゃって」

この人はすごく、不思議な人だ。

「いえ、元々私の仕事ですし別に構わないです…けど」
「…けど?」

「先輩まで残ること、ないじゃないですか」
「え?」

きょとん、とした顔。訳が分からない、といった風な。

「いいじゃない。そうしたい気分だったんだもん」

「私と一緒に居残りたかった、と?」

柔らかい微笑みを湛えるこの人の前では、私の考えていることなんか何もかも見透かされているように感じてしまう。

「そうだね…うん、そうかも」
「何ですか、それ」


「私は春海ちゃんが好きだよ」
「へっ?」

あんまり唐突に言うものだから、思わず間の抜けた返事をしてしまった。

「だから、出来るだけ傍で見ていたいって、思うのかもね」

ふふっ、と笑って席を立つ。
夕陽に染められたその姿に、少しだけドキっとした。

「さ、行こうか」

そうして生徒会室を後にしたのは、真雪の部活が終わるのとほぼ同刻だった。




「やっぱりあの人は不思議だ」
「…会長さん?でも、そういう間がいいっていうか、そんな人って時々いるよね?」
「それにしたって何かもう、すごいんだって!」

力説してみるも、真雪にはイマイチ分かってもらえなかった。
不思議というか…、もはや謎だ。



あとがき
むしろ、この話が謎だ。
サイトの方にうpするにあたってちょこちょこ手を加えたりもしたけど、やっぱり謎だ。

初出 2005.6.19 ポケットの中のメモ帳


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