つなぐ手の温度と一緒に二人で溶け合ってしまえればいいのに。
ある冬の日-side聖-
「っ寒ー!」
なんなんだ今日は。
昼間暖かかったと思ったら、日が暮れたとたんにこの寒さ。
風は冷たいし息まで白くなってるなんて。
…最悪。
「…聖、わめいたところで暖かくはならないわよ?」
「分かってるわよ、でも言わずにはいられないでしょ、こんなに寒くなったりしたら」
さっき別れた江利子が、令の手作りらしいマフラーを巻いてぬくぬくとしていたのを思い出して悔しさが募る。
「天気予報見ておくんだった…」
今更なのは分かっているけど。
「もう、さっきからそればっかり」
「そういう蓉子だって、寒くないわけじゃないでしょう?」
「それはそうよ。誰かさんと違って、マフラーしてるわけでもないし。
だけど、寒いって言えば言うほど、寒いって認識してしまう気がするから言わないだけ」
「……」
…それって、小学生の理論じゃないですか?蓉子さん。
「何よ、なんか文句あるの?」
「…いや、別に。ところでさ、今鞄の中を探して、マフラーが出てきたらいいと思わない?」
「そうね。まずないでしょうけど」
くすくすと笑いながら、鞄の中を隅々まで見てみる。
「……うそ、なんで?」
「どうしたの?」
信じきれないまま、見つけた物を鞄から取り出した。
「…手袋が出てきたんだけど」
「嘘でしょ…?」
蓉子も唖然としている。
だけど手袋はここにあるんだから、嘘であるはずがない。
「ほら、見てみてよ」
そう言いながら手袋を蓉子に渡すとき微かに触れた彼女の手は、とても冷たく感じた。
「…薄手だけど確かに手袋ね。どうしてこんなものが鞄に入っていて気付かないのよ」
「…さあ」
そんなこと言われたって、気付かなかったものは仕方ない。
蓉子は呆れてるみたいだ…。
「でもよかったじゃない。これでいくらか寒さもましになるわね」
蓉子から手袋を受け取る。
また微かに互いの手が触れあった。やっぱり冷たい。
…冷え性なんだろうか、それとも寒さで冷え切ってしまったんだろうか。
「……」
「聖?」
「これ、蓉子が使いなよ」
当たり前のように口にする。
「え?何言ってるのよ、さっきまであんなに寒い寒いって言っていたくせに」
「でも、蓉子の手、すごく冷たかったから…」
私の理論は、蓉子の、小学生みたいなそれよりもずっと無茶苦茶だった。
だけどそれくらいしか思いつかなくて、口にしてから自分で首を傾げて。
そんな私を見て蓉子は苦笑していた。
「気持ちだけでいいわ、ありがとう、聖」
「蓉子…」
なんとなく、このまま私が手袋をはめてお終い、なんてことにしてはいけないような気がして、
私は蓉子の左手をとると、半ば強引に手袋をはめてしまった。
「せ、聖?!」
「やっぱり蓉子の手、冷たいよ」
「でも、これじゃあ…」
「大丈夫だよ」
片割れを私の右手にはめて、左手を蓉子の右手とつないだ。私の手は暖かくなっていたから、つなぐ手から伝わる冷たさがなんだか心地よい。
「……」
「ね、これなら暖かいでしょう?」
「ええ、だけど…」
蓉子は、これじゃあ聖の手が冷たくなるじゃない、とかなんとか言っている。
私は蓉子と手をつないでいられるだけで寒さなんかどうでもよくなるくらい幸せなんだけど、蓉子にとってはそういう問題ではないらしい。
「私の手の方が暖かいから、お裾分けだよ」
これもまた無茶苦茶な理論だけど、そうでもしないと、蓉子は今にも手袋をはずしてしまいそうだったから。
「好意は素直に受け取りなさい、ね?」
「聖…」
「それに、しばらくしたら二人の手の温度が同じになって気にならなくなるよ、きっと。」
「…そうか、そうね。それじゃあ気にしないことにするわ」
混ざりあって溶けあって、元々違ったものだったなんて分からなくなる。
温度だけでなく、二人でそうなってしまえればいいのに、と口にしたら蓉子はどんな表情をするだろうか。
「どうしたの?聖。人の顔をじっと見たりして」
「んーん、なんでもないよ」
決して言ったりはしないけど、もしも言ったなら蓉子はきっと、苦笑しながら『何バカなことを言ってるのよ』とでも言うんだろうな。
あとがき
蓉子さまのことが好きでしょうがない聖さまと、聖さまに押され気味な蓉子さま。
最初は聖さまを冷え性にしようかと思ったけれど、それじゃあ話をまとめられず、こんな形に。
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