境界線を踏み越えて、誰も行けないその場所にたどり着きたいと、そう願っていた。
その向こう側へ
「終わったねぇ」
「…ええ」
通いなれたリリアンの門をくぐって聖が言った。確かに終わったのだ、まだあまり実感は無いけれど。
「…蓉子、今までありがとね」
なんて、唐突に言うものだから少し吃驚してしまった。
「何よ、改まって」
「蓉子にはホントに感謝してるんだ。蓉子がいたから今の私がある」
「…」
手を握りながら、聖は呟くように言った。
式の最中はあれだけ爆睡していたくせに、何故今こんなにシリアスなんだろう。
「愛しているよ、蓉子。出会えて良かったと思ってる」
あまりにいきなりすぎる言葉だったけれど、見つめる瞳に負けずに私はなんとかきりかえすことができた。
「愛しているって、みんなに言って歩いているんじゃないの?」
「へへっ、当たり。昨日祐巳ちゃんにも言ったんだ」
――私は知っている。『愛している』というその言葉に何の嘘も偽りもないことを。
「でも、志摩子にだけは、言わないのよね」
繋がれた手をはなして、少し前を歩いて、思うままに言ってやった。
「よく、分かってるじゃない、蓉子」
そう言った聖の表情は見えなかったけれど、きっと穏やかな表情だったのだろう。
少し、心がざわついた気がした。
「…分かるわよ。私は誰よりもあなたを見てきたんだから。それに…」
――私は知っている。『愛している』というその言葉すら、『特別』の一歩手前でしかないことを。
「それに、なぁに?」
「…内緒」
誰よりも、その場所に立ちたいと思っていたのだから。
あとがき
自分が『特別』にはなり得ないと分かっていても、想うことをやめられない。そんな話。
私がこの二人を書くと必ずと言っていいほどラブラブにならないのはなぜだろう。
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