きっとあなたは気づいていないけれど、私たちにとってはとても大事な事だと思うの。
「あの…」 「どうして紅薔薇さまは、いつも真ん中にいらっしゃるんですか?」 ある日、薔薇の館には私たち三薔薇と、紅薔薇のつぼみの妹の祐巳ちゃんの四人がいた。 仕事も一段落して、お茶を飲みながらの休憩中に祐巳ちゃんの口から飛び出したのが先ほどの言葉。 「祐巳ちゃんは面白いことを言うねぇ、普通そんなこと聞く人いないよ?」 「だ、だって気になるじゃないですか。 必ずとまでは言わないですけど、薔薇さま方が一緒にいらっしゃる時はほとんど紅薔薇さまが真ん中なんですよ?」 そう言われると、確かに思い当たる事が多々ある。 蓉子の方を見ると、目が合った。 「どうしてって、言われてもねぇ」 こうしよう、なんて決めた訳ではなくて、自然にそうなっているのだから正直言って説明のしようがない、 と蓉子の表情が言っている。 三人で顔を見合わせていると、正面に座る祐巳ちゃんがあたふたと百面相を披露していた。 きっと、『大変な質問をしてしまった』とでも思っているんだろう。 「そうねえ」 沈黙を破ったのは私。 「敢えて言うなら、紅薔薇さまが私たちのリーダーだ、っていう事かしらね」 「紅薔薇さまが、薔薇さまの、リーダー…ですか」 呟く祐巳ちゃん。はっと、何かに気づいたような表情を見せた。 『紅』と『リーダー』という二つのキーワード、何を言いたいか、なんとなく分かった気がした。 「祐巳ちゃん、『戦隊物みたい』なんて言わないようにね?」 「は、はいっ!」 蓉子の、笑顔のプレッシャー。途端に祐巳ちゃんは黙ってしまった。どうやら図星だった様子。 相変わらず、分かりやすい子。 「てゆーかさ」 カップを取りながら、聖が言う。 「“薔薇さま”としてはこれが一番しっくりくるんだよね。 想像してみなよ、これ以外の並び方」 「……」 祐巳ちゃんは黙って考え出す。なんだか段々諦観の表情になってきたように見えるのは私の気のせいだろうか。 「紅薔薇さま」 おもむろに蓉子の手を取った。 テーブルの向かい側に座っているから、どうしても思い切り身を乗り出す形になってしまう。 少し滑稽な状況を目の当たりにしている気がした。 「紅薔薇さまが真ん中で良かったです!!」 「そ、そう…?」 「はい!」 一体どんな考えが浮かんだのか、祐巳ちゃんはいつになく真剣な表情。 あの蓉子が圧倒されているなんて、珍しいわ。 でも、その考えは私と聖に失礼なものなんじゃないかしら。 「…祐巳、何をしているの?」 祥子の登場。あ、祐巳ちゃんが固まった。 少し血の気が引いた頬を、一筋の冷や汗が伝っている。 「お、お姉さま…」 とんでもないところを見られた、祐巳ちゃんの表情はそう雄弁に語っていた。 祥子はそんな妹を見て何事かと首を傾げている。 「待たせてごめんなさいね。さ、帰りましょう?」 「はっはい!」 「それではお姉さま方、ごきげんよう」 「ごきげんよう、薔薇さま方」 結局祥子は何も聞くことなく帰って行った。 多分、ここに蓉子がいなかったなら、私たちは事の次第を祥子に問いつめられていたことだろう。 想像してげんなりした。 そんな面倒なことはごめんだわ。 ああ、でも蓉子がいなければ、今の状況ってありえないか。 「…行っちゃった。あの答えで良かったのかしら、祐巳ちゃん」 「いーんじゃない?納得してたみたいだし。いやあ、それにしても祐巳ちゃんはやっぱり面白い!」 口々に呟く聖と蓉子。 「…私はもう一つあるような気がする」 「「江利子?」」 思わず口にしてしまった。 二人ともばっちり聞いていたようで、二人の視線を一身に受ける形になっている。 ああ、面倒なことになってしまった。 「…私と聖が、蓉子を挟んで左右に立ってる理由、もう一つあるかなって、思ったんだけど」 「え?」 「なになに、教えて?!」 「……教えてあげない」 そんなことしてしまったらつまらないもの。 自覚がないことに意味があるんだから。 「教えなさいよ、江利子」 「そうよ、気になってしょうがないわ」 「だーめ、教えない」 言ってしまったらきっと壊れてしまうわ。 『蓉子を真ん中に立たせる』理由、 きっとそれは、蓉子のことが好きで好きでしょうがない私たちが、 無意識に結んだ停戦協定のようなものなのだ。
あとがき
結構前に、6ページのネームを描いたやつをSS化してみました。
マンガを描き切る気力がないようです・・・(へたれ)。
書きはじめのキーワードは、「このポジションは私達の停戦協定」。
江利子さまってなんか、周りの状況をしっかり把握した上で傍観に徹している印象があります。
だからこそ見ていることが面白い、みたいな。
上手い具合に表現できてれば良いなと思う次第です。
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